買ってきた魚の切り身。その日に食べきれず、冷凍しておくことはありませんか。
でも、冷凍した魚はパサついたり、水っぽくなったり。家で冷凍すると美味しさが落ちる——そんな経験があるかもしれません。
水分を拭き取る、ラップで包む、アルミのトレーに乗せる。冷凍する際のコツはいろいろ言われています。ただ、それで美味しさがどれくらい守れるのかを、実際に測った記事は見たことがありません。
そこで、脂の多い魚と少ない魚で、実際に冷凍して比べてみました。測ったのは、解凍したときに流れ出る水分(ドリップ)の量です。水産関連の仕事に10年以上携わってきた私が、実際に測った数字をそのままお伝えします。
読めば、次に魚を冷凍するとき、どこに手間をかければ美味しさが守れるのか分かります。
結論から言うと、特に水分の多い魚は冷凍の仕方を丁寧にすることで、解凍後の美味しさに影響することがわかりました。
家庭で冷凍する際のコツ
家で魚を冷凍する場合のコツとして、よくこういったことが言われます。
- 表面の水分を拭き取る
- ラップでぴったり包み、保存袋に入れて空気を抜く
- アルミやステンレスのトレーに乗せて凍らせる
大手食品メーカーも、同じことを書いています。
急冷機能がない場合は、アルミやステンレス製のトレイの上にのせて冷凍庫に入れるといいでしょう。金属は熱の伝導率が高いため、冷凍にかかる時間が短くなります。
— ニチレイフーズ
ラップやアルミトレーが勧められるのはなぜ?
理由は、凍るまでの速さです。
一般社団法人 日本冷凍食品協会によると、食品が凍るとき、−1℃〜−5℃のあいだが「最大氷結晶生成温度帯」と呼ばれています。

急速凍結はこの温度帯を短時間で通過するため、組織内にできる氷の結晶が小さく、組織の損なわれ方が少ない。 ゆっくり凍らせると通過に長い時間がかかり、氷の結晶が大きくなって組織が損なわれる。
— 日本冷凍食品協会
細胞が壊れると、解凍したときに水分が流れ出ます。これがドリップです。
ドリップが増えると、何が起きるのか
ドリップは、ただの水ではありません。
日本冷凍食品協会は、こう説明しています。
ドリップとは、冷凍した食材の細胞内にある氷が溶けて出てくる水。 肉や魚のうまみ成分も流出してしまう。 刺身などでは、見た目も損なわれる。
— 日本冷凍食品協会
つまり、ドリップが多いほど、うまみが逃げているということです。
身から水分が抜ければ、食感もパサついた方向に向かいます。
だから、冷凍の良し悪しは、ドリップの量ではかれます。 今回も、ここを見ました。

理屈は分かりましたが、家の冷凍庫でもそんなに変わるものなんですか?
そこを実際に測ってみました。
異なる冷凍の仕方による実験

同じパックの切り身を2切れ使い、冷凍の仕方を変えました。
- ていねいに包む……ラップでぴったり包んで、アルミバットの上に置く
- 手軽にすませる……タッパーに入れるだけ
ブリもマダラも同じ日に、2種類の冷凍の仕方で冷凍庫の同じ段に同時に入れました。3日後に冷蔵庫で解凍し、表面を軽く拭いて計量しています。


そして、脂の多い魚(養殖のブリ)と少ない魚(天然のマダラ)の2種類で試しました。
魚種としての一般的な数値を並べると、こうです。
| 水分 | 脂質 | |
|---|---|---|
| ぶり(成魚・生) | 59.6 g | 17.6 g |
| まだら(生) | 80.9 g | 0.2 g |
可食部100g当たり。出典:食品成分データベース(文部科学省)
なおこれは、実験に使った切り身を分析したものではありません。 成分表に載っている、その魚種の一般的な値です。実際の切り身は、季節や個体、養殖か天然かによって変わります。
脂質は88倍、水分は20ポイント以上違います。
ドリップは、身から水分が出てくる現象です。そう考えると、この水分の差が効いてくるはずです。
脂の多い魚(養殖のブリ)は、こうなりました

| 冷凍前 | 解凍後 | ドリップ率 | |
|---|---|---|---|
| ラップ+アルミバット | 71g | 70g | 1.41% |
| タッパーだけ | 71g | 70g | 1.41% |
まったく同じでした。
ただ、凍る速さには差がありました。
冷凍庫に入れて1時間後。アルミバットに置いたほうは、半分ほど凍っていました。 タッパーのほうは、まだ柔らかいままです。
速く凍らせること自体はできていたわけです。それでも、解凍したときのドリップは同じでした。

差が出ると思って測っていたので、正直おどろきました。
脂の少ない魚(タラ)は、こうなりました

| 冷凍前 | 解凍後 | ドリップ率 | |
|---|---|---|---|
| ラップ+アルミバット | 86g | 83g | 3.49% |
| タッパーだけ | 86g | 81g | 5.81% |
こちらは、はっきり差が出ました。 約1.7倍です。
86gの切り身で、2gの違い。それほど大きな量ではありませんが、同じ魚を同じ日に同じ冷凍庫で凍らせて、包み方だけでこれだけ変わりました。

魚の種類や冷凍の仕方でこんなに変わるんですね。
この実験で言えること
3つあります。
① 脂の多い魚は、包み方で変わりませんでした
ブリは、どちらも1.41%。タッパーに入れただけでも、ていねいに包んだ場合と同じでした。
② 水分の多い魚は、包み方で1.7倍違いました
タラは3.49%と5.81%。ここには手間をかける意味があります。
③ 包み方の差より、魚の種類の差のほうが大きいです
ブリは1.41%。タラはていねいに包んでも3.49%。2.5倍です。

手間をかける相手を選べる、ということだと思います。
これまでの研究で分かっていること
今回の実験とは別に、これまでに公的機関が行なった研究のデータを調べました。
凍らせ方で、ドリップの量は2倍変わります
山形県水産研究所が、銀鮭の切り身で試験をしています。
| 凍結方法 | 解凍方法 | ドリップ量 |
|---|---|---|
| 急速凍結 | 氷水 | 1.24% |
| 急速凍結 | 20℃水 | 1.65% |
| 緩慢凍結 | 氷水 | 2.38% |
| 緩慢凍結 | 20℃水 | 3.16% |
出典:山形県水産研究所「冷凍したサケの好適な解凍条件」(令和2年度)
同じ氷水解凍でも、急速凍結と緩慢凍結で約2倍違います。
そして注目したいのは、凍らせ方の差のほうが、解凍方法の差より大きいことです。
- 凍らせ方の差:1.24% → 2.38%
- 解凍方法の差:1.24% → 1.65%

解凍の方が大事だと思っていました
データからは、解凍をていねいにしても、凍らせ方が悪ければ取り返せないということが考えられます。
家庭用の冷凍庫は、−18℃以下です
家庭用冷蔵庫の冷凍室は、JIS規格(JIS C9607:2015)で星の数が決まっています。
| 等級 | 温度 | 保存期間の目安 |
|---|---|---|
| ツースター | −12℃以下 | 約1か月 |
| スリースター | −18℃以下 | 約3か月 |
−18℃というのは「保存する温度」であって、「速く凍らせる温度」ではありません。
日本冷凍食品協会も、こう説明しています。
家庭用の冷凍庫は通常−18℃で設定されているので、急速凍結はできない。 冷凍庫は、もともと凍結よりも保存を主な目的として作られている。
— 日本冷凍食品協会
冷凍庫の中の温度は、一定ではありません
そして保存中も、温度はずっと同じではありません。扉を開け閉めすれば、庫内の温度は上がります。
冷凍した魚に、白い霜がついているのを見たことはありませんか。
この霜は一度、冷凍されている食材の温度が上がって再度冷えることを繰り返したり、あるいは再凍結した可能性が高い。 食品から水分が抜けているのでパサパサして品質が落ちている可能性が高い。
— 日本冷凍食品協会
乾燥したり酸化したりすることを「冷凍焼け」といいます。
今回の実験は3日間です。 この期間では、そこまでのことは起きません。
でも、長く置くほど、扉の開け閉めのたびに温度が動きます。 半分溶けて、また凍る。それを繰り返すうちに、水分は抜けていきます。
協会は、自宅で冷凍したものは2〜3週間を目安に使い切ることを勧めています。

冷凍庫に入れたら止まる、というわけではないんです。
凍らせる前の状態も効いています
鹿児島県の研究では、こう報告されています。
凍結前のATP濃度は、解凍後の品質に大きく影響をもたらす。 筋肉内にATPが残った状態で凍結処理を行うことが重要。
ATPは、魚が生きているときに筋肉に蓄えられているエネルギーです。活締めや神経締めは、これを多く残すための処理です。
つまり、冷凍の良し悪しは、凍らせる前からすでに始まっています。
総合すると、どうすればいいのか
実験と文献を並べて、言えることを整理します。
なお、私の実験と、山形県のデータは条件が違うので、数字を直接比べることはできません。 それぞれが示していることを、別々に受け取ってください。
① 脂の多い魚は、気にしすぎなくていい
ブリでは、包み方で差が出ませんでした。 サバやサンマのような脂の多い魚も、同じ傾向だと考えられます。
タッパーに入れるだけでも、ていねいに包んでも、3日間の冷凍では結果は変わりませんでした。
ただし、冷凍される時間には差がみられたことから、より長期間冷凍庫で保存するとなると、差が出る可能性が考えられます。
② 水分の多い白身魚は、ていねいに包む
タラでは1.7倍の差が出ました。 カレイやヒラメなど、水分の多い白身魚も同じ傾向だと思います。
水分を拭き、ラップで包み、金属のトレーに乗せる。このような魚には、その手間が効きます。
③ それでも、家庭でできることには幅がある
日本冷凍食品協会が示すように、大事なのは −1℃〜−5℃をどれだけ速く通過するかです。
家庭用の冷凍庫は−18℃以下で保存するための設備であって、速く凍らせるための設備ではありません。アルミバットを敷いても、できることの幅は限られています。

家庭でできる工夫には、どうしても天井があります。
冷凍で売られているものを選ぶ

凍らせ方で結果が決まるなら、凍らせるところを任せてしまうという選択があります。
産地や工場では、家庭の冷凍庫では出せない速さで凍らせています。
食塩水やアルコールの不凍液に漬ける液体凍結(ブライン凍結)や、電磁波を組み合わせるプロトン凍結といった技術があります。液体は空気より熱を伝えやすいので、−1℃〜−5℃を短い時間で通り抜けられます。
このような最新の凍結方法を活用することで、ドリップが限りなくゼロに近い状態の冷凍をすることができ、美味しさを閉じ込めることができます。
- 主に冷凍の性能が良く、ドリップが少ない(美味しさが守られる)
- 冷凍で届くので、買い物の回数が減る
- 必要な時に、必要な分だけ使える
まとめ
この記事の要点をまとめると以下のとおりです。
- ドリップには、うまみも一緒に流れ出る(日本冷凍食品協会)
- 脂の多い魚(ブリ)は包み方で差が出ず、水分の多い白身魚(タラ)は1.7倍の差が出た
- 手間をかける意味があるのは、水分の多い魚
- 家庭用の冷凍庫は保存するための設備。自宅で冷凍したら、2〜3週間を目安に
次に魚を冷凍するとき、その魚が脂の多い魚か、水分の多い白身魚かを思い出してみてください。手間をかけるべき場面が分かります。



