【簡単解説】魚の野締め・活締め・神経締めとは?締め方による効果と失敗しない魚選び

魚の科学

最近、魚を選ぶときに、「活締め」や「神経締め」という言葉を目にすることはありませんか?

なんとなく、「美味しそう」「鮮度が良さそう」と感じるものの、正直なところ違いはよくわからないという方も多いと思います。

実は、どれだけ高級な魚や新鮮な魚であっても、締め方によっては美味しさが損なわれたり、鮮度が早く落ちたりしてしまうことがあります。

つまり、知らないまま魚を選ぶと、無意識に損をしている可能性があります。

本記事では、水産関連の仕事に10年以上携わってきた私が、魚の科学の視点から「野締め」「活締め」「神経締め」の違いを、専門知識がなくてもわかるように、簡単に解説します。

この記事を読むことで、

・魚の締め方で何がどう変わるのか
・締め方をこだわった方が良い理由
・スーパーやネット通販で失敗しにくくなるポイント

などがわかります。

結論として、「活締め」や「神経締め」は、「野締め」の魚と比べて、遥かに美味しい状態をキープできる方法です。

魚の締め方の違いを知ることで、より美味しい魚に出会える確率は確実に上がります。

是非、これからの魚選びに役立ててみてください。

魚の締め方とは?なぜ重要なの?

魚を「締める」というのは、漁獲された魚や生きている魚を、食用として品質を落とさないように意図的に命を絶つ処理のことです。

つまり、漁獲された魚の「締め方」によって、食用としての価値が変わってしまいます。

その理由について簡単に解説していきます。

魚は死んだ後も変化し続けている

魚は、水揚げされた瞬間に体の中の変化がすべてが止まるわけではなく、死んだ後もしばらくの間、さまざまな変化が続いています

体の中の変化は、主に筋肉の中にあるエネルギー(ATP)が消費されることによって生じます。

生きている間は、エネルギーが作られたり、消費されたりしながら活動していますが、死んでしまうとエネルギーが作られず、消費されるだけになります。

その結果、例えば、筋肉を緩めるために必要なエネルギーがなくなり、徐々に体が硬くなる「死後硬直(刺身がコリコリする原因)」が起こり、その後、筋肉の構造が壊れ始めることで柔らかくなっていきます。

また、エネルギーであるATP自体が旨味や臭みの基となっています。

このATPが分解される過程で、旨味成分(イノシン酸)が生じ、さらに分解が進むと臭みの原因物質へと変化していきます。

このように、死んだ後も体の中では、さまざまな変化が続いています。

締め方の違いは、味や臭みに直結する

水揚げされたあとの体の変化の速度は、締め方によって変わってきます。

理由としては、締め方によって死ぬ間際に消費されるエネルギーの量が変わるからです。

主に漁獲される際や水から揚げられた後にも魚は暴れ、エネルギーをたくさん消費します。

エネルギーを多く残す締め方をすることで、鮮度の低下を遅らせ、高鮮度の状態を保つとともに、旨味成分の基を残すことができます。

また、魚の血は生臭さや鮮度低下を早め、身の色も悪くする原因の一つです。

そのため、締めることと同時に血抜きをするかどうかという点も味や臭みに影響してきます。

魚の締め方とは主に3種類

今回は、主な締め方として、「野締め」「活締め」「神経締め」について紹介いたします。

野締め(野〆)とは?

野締め(のじめ)とは、魚を水から揚げたあと、特別な処理をせずに死なせる方法です。

たくさんの魚を一気に漁獲する漁業では、この方法が一般的です。

魚が暴れながら弱っていくため、多くのエネルギーを消費し、鮮度の低下が早く、臭みが出やすい傾向があります。

ちなみに、氷水などに入れて締める「氷締め」も野締めの一種とされています。

この方法は、野締めの中でも比較的短時間で締められ、低温で鮮度保持効果も高いことから、漁業の現場などでもよく使われています。

活締め(活〆)とは?

活締め(かつじめ)とは、魚が生きているうちに延髄を切断するなど、急所を突いて即死させる方法です。

魚が暴れる時間が短いため、エネルギーの消費が抑えられ、鮮度低下や旨味成分の減少、食感に影響する死後硬直を遅らせる効果があります。

また、基本的に活締めの際には、血抜き処理も同時に行います。

血抜きには以下の効果があります。

血抜きの効果

・生臭さを抑える
・身の色がキレイになる
・傷みにくくなり、日持ちが良くなる

このように、野締めに比べて、魚を美味しい状態で保つことができます。

神経締め(神経〆)とは?

神経締め(しんけいじめ)とは、活締めをした後に、背骨に沿って通っている神経をワイヤーなどを用いて物理的に破壊する方法です。

すなわち、活締めからさらに鮮度保持効果を高めるためのオプションのようなイメージです。

死後もしばらくの間は、神経から筋肉に「動け」という信号が送られることがあります。

神経を破壊することによってこの信号が送られなくなるため、筋肉の無駄な動きがなくなり、エネルギーの消費がさらに抑えられます。

神経締めされているかどうかを見た目で見分けることは難しいですが、頭側あるいは尾びれ側からワイヤーを通すため、小さい傷(穴)が空いていることが目印になります。

3つの締め方の違いを簡単に比較

締め方の違いが鮮度にどの程度影響するのか、また、実際に家庭で感じる違いはどのあたりなのか、締め方による効果を比較して解説していきます。

味・臭み・食感・日持ちの違い

締め方の違いが、味や臭み、食感、日持ちなどにどのような影響を与えるかについて、野締めを基準に簡単に比較すると以下のとおりです。

臭み食感日持ち
野締め
活締め旨味成分を残す出にくい良い状態が続く長く持つ
神経締めより旨味成分を残すより出にくいより良い状態が続くより長く持つ

ポイントは、締め方によってより美味しくなるというわけではなく、美味しい状態をキープできる時間が長くなるというのが正しいイメージです。

また、このような違いについては、魚の種類や獲れた魚の状態によっても大きく変わってくるため、一概に「活締め」や「神経締め」をすることで、さらに⚪︎日長持ちする、ということは言えません。

一例として、「カレイ類」で「5℃で保管」という条件で行った研究結果では、野締めに比べ活締めではプラス1日程度、神経締めではさらに1日程度鮮度低下を遅らせることができるとされています(青森県産業技術センター食品総合研究所研究報告,2020)。

いずれにしても、「活締め」や「神経締め」をした魚は、無駄に暴れていない分、体の中のエネルギーを使い切らず、結果としておいしい状態が長く続きます。

家庭で感じやすい違いはここ

魚の締め方の違いを家庭で感じやすい点は、特に鮮度低下の速さです。

鮮度が命の魚にとって、その日に獲れた魚を食べることができれば良いですが、なかなかそうもいきません。

漁獲後、数日経っていても美味しさや鮮度が良いというところは、特に違いを感じやすい点の一つです。

また、「活締め」や「神経締めは」基本的に血抜きがされているため、生臭さが出にくい特徴があり、違いを感じやすい点になります。

「鮮度がよい」「生臭くない」という点は、美味しい魚料理を作る上でとても重要な部分です。

失敗しない魚の選び方

では、実際に魚を選ぶ際にどこを見れば失敗せず、美味しい魚が購入できるのか解説します。

まず見るべきは「締め方」の表示

魚を選ぶときには、まず「活締め」「神経締め」などの表示があるかを確認しましょう。

基本的には、野締めがほとんどですので、「野締め」と表記されているものはありません。

一方で、「活締め」や「神経締め」は1尾1尾の処理が必要で、手間をかけているため、これらの処理がされている場合は、わかりやすく記載があると思いますので、品名などを確認してみてください。

ちなみに、主にマグロ類は血が多い魚で野締めをすると全身に血が回り美味しさが半減してしまうため、基本的に獲れたらすぐ活締め、内臓処理の作業が行われます。

締め方の記載がない魚はどう考える?

「締め方」の記載がない魚が悪いというわけではありません。

そもそも、基本的には記載のない魚がほとんどだと思います。

一方で、「活締め」や「神経締め」されている魚よりは鮮度の低下が早いのも事実です。

鮮度の良さについては、目が透き通っていることやドリップが出ていないことなど、見た目でも判断できる箇所がありますので、鮮度が高く見た目で美味しそうと思える魚を選ぶことがポイントです。

また、できるだけ早く食べることや加熱処理をすることで美味しく食べることができます。

ネット通販、直販が締め方にこだわれる理由

最近では、ネット販売や直販サイトで「活締め」や「神経締め」の処理をされた魚が買えるようになってきました。

生産者さんや漁師さんが直接、個別に販売するため、手間のかかる処理や魚の状態に合わせた発送が可能となります。

忙しくて魚屋に行けない家庭でも、品質を重視した魚選びがしやすい方法の一つです。

例えば、直販サイトの「ポケマル(ポケットマルシェ)」では、漁師さんから魚を直接購入できるのが特徴で、「活締め」や「神経締め」など丁寧に処理された商品が多く販売されていますので、是非試してみてください。

旬の海鮮を直送でお取り寄せ ポケットマルシェ

まとめ

まずは「野締め」「活締め」「神経締め」については次のとおりです。

・野締め:特別な処理をせずに死なせる方法
・活締め:急所を突いて即死させる方法(血抜き含む)
・神経締め:活締め後、神経を物理的に破壊する方法

そして、「活締め」や「神経締め」の効果については次のとおりです。

・鮮度の低下を遅らせる(美味しさをキープ)
・生臭さを出にくくする

魚の鮮度や美味しさは、「いつ獲れたか」だけでなく「獲った後にどう処理されたか」によって大きく左右されます。

締め方の違いを知った上で、魚を選ぶことで「美味しい魚」に出会える機会も増えていくと思います。

ぜひ、これからの魚選びの参考にしてみてください。

参考文献

カレイ類の活締め方法の違いによる鮮度変化について,青森県産業技術センター食品総合研究所研究報告,2020

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